立ち込めるアルコールの香り。
下品な笑い声。
ならず者達が酒と女を求めてやってくる、欲望の場。
 
酒瓶の割れる音が響く。
悪魔の形相をした男二人が立ち上がり、ホルスターに
手をかける。
 
別に珍しくも無い光景だ。
客は二人をはやし立て、
このいざこざを酒の肴に即席の賭けを始める。
当の本人たちは互いに睨みをきかせ、息を整える。
今か今かとギャラリーが唾を飲み込むその時、
凛とした女性の声が酒場に響き渡った。
美しいが、芯の通った力強い声。
二人は少し気まずそうに酒場を出て行く。
声の主は酒場の女主人だった。
一人でこの酒場を切盛りするだけあって肝は据わっている。
 
ここでは彼女がボスであり、男たちの母親であった。