「じゃあな。また来るよ」
今日の最後の客もあの男だった。
ちょっと斜に構えた細身のガンマン。
ふざけているようで、その眼は何かを見定めるかの
ようにギラついていた。
あの男が来た日はなにかスッキリしない。
面倒が起こらないうちにとっとと店を閉めるとしよう。
 
ある朝、給水塔にチンピラの死体が浮いたって話が
酒くさいならず者たちの口から聞こえてきた。
手の込んだ殺り方だ。
暴力の支配するこの町でなにか隠す必要でも
あるっていうのか。
 
その時、あの男の顔が脳裏をよぎった。
まさか。
だが、根拠の無い自信がその考えを否定する。
あいつはただ者じゃない。
そう思うと、それ以上詮索するのはヤメにした。
 
蛇口から自家製赤ワインを提供する気にはなれなかった。